ファインダーの向こう
「酷いざまですね、逢坂さん」


 雪で全身が濡れそぼり、こんな姿を元部下に見られて逢坂は自嘲気味に小さく笑った。


「森本刑事のおでましか……光輝、もう観念しろ」


「くっ……」


 渡瀬は警察手帳をかざしてマスコミの群れからすっと現れた森本を睨んだ。


「渡瀬光輝だな? 我々と連行しろ」


「はっ……どうしてかな? なにか問題の証拠でも?」


「証拠ならいくらでもありますよ、オレが渡瀬商事の本社倉庫で監禁されてる間、ずっとポケットの中のレコーダが動いてましたから、“葉っぱを取り寄せたから今夜、峰崎埠頭に行かないとね”って声もばっちり入ってましたよ。あぁ、ついでに言うと、オレを助けに来てくれた森本さんにお礼しなきゃと思って、その音源はプレゼント済みです」


 ふふん、と鼻を鳴らして新垣が自慢げに言うと、渡瀬は怒りで肩を震わせた。


「当時、倉野隆に手をかけたお前の部下から全部事情を吐かせた。光輝……お前には失望したよ。社長の椅子も取り上げだ。違法行為を行っていた社員のクビは全員切ったし、会社も半分閉鎖した」


「な、な……なん、で」


 愕然として渡瀬は低い唸り声を上げながら頭を抱え込んだ。


「なんで……いつもいつも私の言うとおりにならないんだ……くっ、うぅっ」


「それは自分の胸に聞いてみろ」


 もう全ては終わりだというように森本が渡瀬の両手に手錠をかけた。項垂れながら悄然としている渡瀬の様子を、次々とマスコミたちが嵐のフラッシュを浴びせ始めた。



 大企業商社社長逮捕の瞬間は、真っ白い雪と幾数のカメラフラッシュに包まれていた―――。
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