ファインダーの向こう
「逢坂さん、すみませんでした」


「なんのことだ」


 憔悴しきった渡瀬をパトカーに乗せると、森本が逢坂とすれ違い際にぽつりと言った。


「いえ、本当は……あの手錠をかけるのは、逢坂さんだったはずなのに」


「正規品の手錠を俺が使ったらヤバイだろ」


 逢坂は肩ごしにちらりと森本を見て、ふっと笑った。


「逢坂さん、免職の取り消しを求めることは……今からでも遅くはないと思います。だから―――」


「森本」


 厳しい声で名前を呼ばれて、森本は当時、自分が逢坂の部下だった時の頃をふと思い出した。こういう時の逢坂は必ず自分を否定する。相変わらずな逢坂に、森本は人知れず小さく笑った。


「ようやく俺は足枷から解放されたんだ。もう暗闇の中、ドス黒いものを追いかけなくていい世界を手に入れた……生きたいように生きるさ」


「……そう、ですか。それでは……また」


 想定していた返事が返ってくると、やはり逢坂は自分にとって思った通りの人間だと安堵した。そして、森本はパトカーに乗りこむと、そろそろ白み始めた闇の中に消えていった。



 その時―――。
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