ファインダーの向こう
 沙樹は結婚願望がないわけではなかった。父親にウェディングドレスを見せてあげられなかったと悔いていることがその唯一の証拠だ。いつかは、自分も一生を添い遂げられる人と人生を共にしたい。と憧れを抱いていたが、現実になるまでにはほど遠かった。なぜならば、今は結婚よりも仕事の方が自分らしさを感じられるからだ。そんなことをもやもや考えながら、沙樹はむくりと身体を起こして、コーヒーをサーバーから淹れるとテレビをつけた。


 すると―――。


『隆治さんが浮気してるなんて、信じられません!』


『神山ルミと噂になっていることはご存じですか?』


『知りません!』


 画面に映っているのは、里浦の婚約者らしき女性だった。


 一般人のため顔にモザイクがかかっているが、服装は社長令嬢らしくひと目で高価で質の良さそうなものを身につけているとわかった。どのチャンネルを回しても、ルミと里浦とその婚約者の三角関係の話題ばかりやっていた。今まで水面下で動いていた里浦とルミのネタだったが、ついに婚約者の知れるところとなってしまったようだ。


(ルミ……)


 写真は絶対に嘘をつかない。いつも、真実を求めてファインダーを覗いてきたが、その真実を今夜目の当たりにすると思うと、沙樹は複雑な気持ちになった―――。
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