ファインダーの向こう
「んっ!?」


 半ば強引に壁に身体を押し付けられて、沙樹はその拍子に軽く後頭部を打ち付けた。軽い目眩の中、自分を覆う影から微かに漂う煙草の香りがして沙樹がうっすら目を開けると、生温かい感触が唇を塞いでいることに気づいた。


「っ!?」


「いいから、黙ってろ」


(な、なんで、逢坂さんが……私に!?)


 逢坂が沙樹の頬を手で包み込むように口づけている。そんな強引な唇から逃れたくても逃れられない。そんな中、時折つく逢坂の吐息に、沙樹の胸がドキドキと高鳴った。


「なんだよ、ただのカップルかよ……ったく、ビビらせやがって」


 逢坂の背中の向こうで里浦の声がしたかと思うと、先程まで自分に向かって近づいてきた足音が遠のいていった。


「隆治~なんなの? もしかしてマスコミにバレた?」


「いや、違った。行こうぜ、寒ぃ」


「うん」


 沙樹は逢坂に唇を塞がれながら、ルミと里浦が遠のいていく気配を感じた。僅かに身じろいで視線を動かすと、里浦とルミがホテルに入っていく姿に瞠目した。


(撮り……逃した―――)


 深い絶望感にどうすることもできないままでいると、不意に逢坂の身体がゆっくり離れていった。冷たい空気が沙樹の唇をそっと撫で、沙樹の意識が無理やり現実に引き戻される。


「あ、あの……」


「なんだ」


 声をかけたものの、沙樹は言葉に詰まった。
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