逃亡


「こっちがトイレで、そっちがお風呂ーーーあ、冷蔵庫の中も適当に処分しちゃって。」

白を基調にしたシンプルな部屋。

「や、屋嘉部さん!!」
「ん?」
「こんなに、凄いマンションだなんて言わなかったじゃないですか~」

私のアパートなんて比べ物にならないくらい広くて綺麗。

「ヤダ~真那、可愛いこと言わないでよ。」
「だって、入り口から暗証番号入力して入るなんて、初めてで…お部屋だって広いし…」
「それが可愛いって言ってんの。変な部屋だったら、解約するでしょ。わざわざ他人に住んで欲しいなんて思わないんじゃない?」
「……。」
「ね?」

屋嘉部さんは笑いながら紅茶を入れてくれた。

「出発はいつなんですか?」
「んーあさって、かな?」
「あさって!?」
「真那はいちいち驚くね。」
「驚きますよっ!!普通ですっ!!」

荷造りの様子もない、掛けっぱなしの服。
とても3ヶ月も家を開けるように見えない。

「片付け全然終わってないんだよね、アハハーーーだから、真那には感謝してる。」
真剣な屋嘉部さん。
感謝すべきなのはーーー
「ーーー私の方こそ、」
「ん、何か事情があるんだよね?聞いてもいい?」









ーーーー……

「彼氏の浮気かー私も散々やられたなー」
アハハと笑う屋嘉部さん。
「……。」
「今は、笑えるけどねー」
「私も、笑えるようになれますか?」
「なるよ。」

屋嘉部さんは即答してにこっと笑った。

「真那、定番だけどさ、髪切っちゃおうか?」
「髪ー?」
「そ、私に切らしてくれないかな?」
「えっと…屋嘉部さん?」
屋嘉部さんはニヤリと笑うと。
「あいあむ美容師。ヘアアーティストとも言う。」






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