逃亡
「出発までの間でいいから、ご飯作って欲しーいっ!」
「こんなご飯でいいなら、いいですよ。」
「よっしゃ♪」
箸を持ったまま、ガッツポーズをした准さんは、ハッと思い出したように言った。
「でも、無理だったら言ってね。真那だって、仕事があるんだし。」
心臓がドクン、と、変に跳ねた。
「……だ、大丈夫、准さんが出発する日までお休みだし。」
「ーーーアンタ、働いてんのか?」
それまで黙ってご飯を口にしていた理巧さんが眉間にシワを寄せた。
「……働いて、ます。」
すっかり忘れていた現実を思い出して、言葉に詰まる。
「ーーー休みって、どういうことだ?」
「理巧兄、」
理巧さんは、間に入ろうとする准さんを制して持っていたお茶碗を置いた。
「ウチのサロンは、今日みたいな客が少なくない。週刊誌にリークでもされたら信用問題に関わんだよ。」
「はい、言われる意味、分かります。」
素性の解らない人間が、簡単に信用されるなんて思わない……親友だって、裏切るんだから。
理巧さんに、誕生日に彼と旅行に行くことになっていたこと、待ち合わせ場所に行かずに部屋へ行ったこと、そこで親友と抱き合っていたことーーー自分の部屋へ帰れないことも全部話した。
「ーーーすげぇな。」
一通り話終えた私に、理巧さんは呟いた。
「アンタ、すげぇな。」
「え?私?」
「メールも電話も出ずに携帯変えて、その上着拒って、アパートの合鍵持ってるからって、違う部屋探すか?普通、探さねえだろ。」
半分呆れたように言われて、
「……理巧さんには、分かりません。」
思った以上に低い声が出た。
「あー違う。誉めてんだよ。」
「……。」
「アンタ、それまで傷ついてたんだろ。自分を守る為に行動してんだーーー偉いよ。」