彼女
私たちが校門を出て右に曲がった瞬間、いきなり風が吹いた。

突風に思わず目をつぶる。

風はすぐに止んだ。

ゆっくりと目を開ける。

次の瞬間、私の目に映ったのは、空を舞うビニール袋。

それはまるで意志を持っているかのように、遠く遠く飛んでいく。

彼女もまた、見ていた。

ビニール袋はすぐに家の陰に隠れて見えなくなった。

「どこか遠くに行きたいな。」

彼女は言う。

「…うん。……明日のこととか、何も考えずにすむ所。そんな所行きたい。」
私たちはよく、できもしないことを言う。

ちゃんと頭ではわかっているのに、どうしても言葉にしたくなる。

確かめ合いたくて。

彼女も私も、感じ方は違っても、同じ思いを抱えていると。

それがわかるだけで、こんなにも心は軽くなる。

あのビニール袋のように、どこかへ飛んでいけると、そう、信じられた。

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