スノードームと恋の魔法
殴られる。
そう思ってぎゅっと目を閉じた瞬間、ふわりと春の野に咲く花のような甘い香りが僕の鼻を掠めた。
いつまでたっても拳が降ってこないので、おそるおそる目を開くと、マサオくんは茫然とその場に立ち尽くしていた。
マサオくんの足元にはキャメル色のコートを着た女の子が屈んでいた。
僕のダウンのポケットに入った手袋の持ち主、さっきのあの子だ。
女の子は持っていたハンカチで丁寧にブーツの汚れを取ると、立ち上がった。
「つるつるした生地のブーツだから、拭けばキレイになった。もし、匂いが気になるようだったら、その辺に積もった雪で洗ってあげる。君たち、最初から彼にぶつかろうとしてたでしょ?すれ違った時に聞こえちゃったの。そういうのって確信犯っていうのよ」
小柄な女の子はマサオくんを見上げるようにして、言い放った。
「もし、また彼を脅すようなことをしてみなさい。うちのお爺ちゃんに言いつけるからね!うちのお爺ちゃん、昔は猟師だったんだから、知らない間に鉄砲で撃ってもらちゃうから!」
そう啖呵を切ると、マサオくんは怖くなったのか、「今日は勘弁してやるよ」と僕を指さして、人込みの中に消えて行った。
ふんと女の子は鼻を鳴らし、マサオくんの後ろ姿を見送ると、
「あ~、怖かったぁ」
と安堵の笑みを僕に見せた。
その笑顔がかわいくて、思わずどきりと胸が高鳴る。