スノードームと恋の魔法
彼の不幸な生い立ちは、周りの同情を買ういい材料になるだろう。
けれど私は彼の作る美しい世界を、同情の目を通して見て欲しくはなかった。
彼の人柄がにじみ出ているような温かい世界観は、必ず見る人を感動させてくれるはずだ。
それに、彼自身もわざわざ辛い過去を、さらけ出すようなことはしたくないだろうと思ったのだ。
彼の口から聞いたことは、全て私の心の奥に留めておこう、ダウンジャケットを着こむ彼の後ろ姿を見て、私はそう決意した。
彼が扉を開けた瞬間に、何か小麦色のものがさっと扉の前を横切った。
犬?そのもこもことした毛並みが一瞬見えて、獣の行方を視線で追う。
「何ですか?さっきの?」
「この辺の森に生息するキツネです。親子代々、僕の所に遊びに来るんです。友達なんですよ、キツネと友達なんてすごいでしょう?僕が出て来ると思って、扉の前で待ち構えていたのでしょう。けれど、あなたがいたことにびっくりしたみたいです」
優しい笑みを浮かべながら、彼はそう告げた。
外に出ると、遠くの針葉樹の影にキツネらしき影を見つけた。
もうあんな所まで走って行ってしまったみたいだ。
驚かせてしまって悪かったなと故意にではないけれどすまなく思った。
「すみませんが、先にアトリエに行っててもらっていいですか?鍵は開いています。僕はキツネたちのためにミルクを温めますので、実は日課なんですよ」