妖勾伝




「別れ際…
アヅは俺に、自身の妖力をかけた要石を手渡した。
それは、小さな石の塊。
俺の妖力を保つ、
いわば心臓の役目。
其れが無ければ、俺は消えて闇の藻屑に失せるだろう…

俺を捕らえ、意のままに操つる為に仕組まれたカテナ。
俺を念珠岩から出す条件と引き換えに、アヅは闇の呪縛をかけたんだーーー」



神月は、ゆっくりと左の掌を開いた。


闇にぼやけ浮かぶ掌には何も無く、其処にあるであろう要石の存在に神月は視線を落とす。




「だが…
それでも良かった。
五百年もの苦痛の時から、解放されたんだからな。

しかし、
ガキだった頃の貴様が、銭欲しさに俺の懐からその要石を盗んだんだ。
要石が入った袋と、銭袋と勘違いしてな……」








神月の綴られる言葉達によって、少しずつ色を付け始めていくレンの記憶。

重なるごとに、鮮明さを増してゆく。






「逃げた貴様を追って、辿り着いた先…」






ーーー九年前



軽やかな、弦の音色。

煌びやか衣装を付けて、舞い踊る菰ーーー





「貴様をガキだと見くびっていた俺は、
要石を奪い返す前に、それを阻止された。
其処に居合わせた半妖と共に、貴様に要石を砕かれたんだ。

粉々にな……」






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