妖勾伝
ーーーあの時
もう、ダメだと思った瞬間、
傍に転がり落ちてくる要石が、レンの瞳の端に映る。
目の前には、強大な闇。
打つ手もなく、ただ死を突きつけられて、選択の余地すらも無い。
レンは裂き斬られた右肩の爪痕の痛みを堪えて、無我夢中でその要石を掴みとったのだった。
不思議な感覚ーーー
要石が、静かにレンの掌中に納まる。
掴んだはずの存在は宙を探る様に何も感じず、痛みで薄れゆく視界にその姿だけを留めていた。
ーーー此が、
要石…
そう思うと同時にレンの掌中で砕け、目映い閃光を放った要石は、影も形もなく消え去っていた。
「貴様が手にした、
闇の力ーーー
そして、
要石と共にする、俺の存在……
すべて、貴様に繋がる。
貴様が死ねば、俺もこの世から失せる事になるだろう…
だから、
貴様に『死なせない』と云ったんだ。」
曖昧に記憶の波を漂っていた過去の事実は、神月によって必然的に繋がれていったのだった。