恋の扉を開けて
「何か聞きたいことはないか?」

「今はないです。」

「何かあったらメールでもいいよ。」

「はい。」

「俺はあとでまた店に行って来る。」

「専務?」

「ん?」

私が呼ぶと店での彼ではなく普段の彼が答えた。

彼は温かい紅茶を飲みながら私を見つめた。

「何?」

私はその声を聞くだけで満たされた。

深い音で甘くしびれそうになる彼の声に溶かされたい。

彼の目を見つめ返しながら私も紅茶をすすった。

この静かなひとときは私にとって至福でしかない。

「どうした?」

彼の声は私をせつなく甘い気持ちにさせた。

「時間ならあるよ。」

私の手からカップを取り小さなサイドテーブルに置いた。

「欲しいなら言ってくれればいい。」

彼は親指で私の下唇を軽く撫でた。

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