フラグ


公園に着いた。



公園の中に入ると人が結構いたので、林の方に歩いて行く事にした。



前にみんなで来た時に池に行った方に歩いて行く。



「田中、人間一生一人ぼっちの人なんかおらへんで、人間一人ぼっちなんは生まれる時と死ぬ時だけや、俺が屋上でたまたま話しかけて仲良くなったけど、俺があの時に屋上で話しかけへんかっても、いつか全体誰かと仲良くなったって」


「そうかもしれへんけど、私が勝手に川上君の事を恩人やと思ってるだけやから、川上君が気にする事ないんよ」


「勝手にって言うても恩人って、そんな大したことやないやん」


「いいの、私が勝手にそう思ってるだけやから、ウフフ」


「うーん…何か納得出来へんけど」



この前のように、池の外周を歩いて回った、鴨が泳いでいる。


「そうや田中、貸しボート乗らへん?さすがに池の上は静かなんちゃう?」


「うん…それは別にいいけど」


「いいけど何?」


「何か……こ、恋人みたい…やし」


「あははっ、そんな事気にしてるんや、あっ!もしかして俺とは嫌?」



田中は、首をブンブン横に振り「そ、そういうんやなくて…」


「ん?ほんなら何?」


「んーん、いいよ乗ろ」



俺は、よく分からなかった。



貸しボートの所に着いて、俺はお金を払ってボートに乗りこもうとしたが、意外に乗る時は安定が無くて怖かった。



貸しボート屋のおじさんが「お兄ちゃん、彼女の手を持ったって」と言われた。



だから、ボートに乗って田中に手を差し出した。



田中は一瞬躊躇したが、片足をボートに乗せて意味が分かったみたいで俺が差し出した手を持った。



田中の手が柔らかかった。



舞と佐知子とは何度か手を握った事はあったが、何故か少し緊張した。



緊張した瞬間ボートが左右に揺れる。



俺は咄嗟に、田中の手をしっかり持って「大丈夫やから座って」と言った。



田中が何とかボートの後ろ側に座る。



俺も腰を下ろして座ると、ボートの揺れが止まった。



ボートを漕ぐのは、何となく感覚で分かったのでオールを漕いでボートが進んで行く。



少しずつ池の中央付近に行った。


「よし、これで静かな所に来れたな、なかなかボートも面白いもんやな」


「池から回りを見るのって新鮮な感じやね」


「何か、自然やなー」


「こんな静かで自然のところやったら、話しも出来るね」


「ほんで、話しってあの話し?やっぱり」


「うん…」


「俺的には、だいぶん落ち着いたんやけど、言うたほうがええん?」


「川上君が、あんなに思い詰めたり嘘ついたりするのは、普段ないから心配やし…私が聞いて川上君が楽になるかな?って」


「うーん…どうなんやろ?田中に言うて楽になるかは別として、解決はせえへん問題やしな」


「そうなん?私は川上君の力になれへんの?」


「というより誰も力になれへんな、この問題は」


「そう言われると、どんな問題なんか気になる……けど…」


「そこまで心配してくれてるし、言った方がええんかな?とも思うし、言うわ」


「うん…」


「実はな、あのバーベキューした日の夜に佐知子に「好き」やって言われてん」


「えっ?」



田中の大きい目が見開かれた。


「佐知子が言うには、俺が田中の事を好きやと思うって、だから自分の気持ちを伝えたかったって」


「………」



田中は、うつむいて聞いている。



「でも俺は、今まで通りみんなで遊んだりするのが楽しいから、この関係を潰したくないっていうのが一番やって言うた」


「………」


「ほんで、俺の気持ちとしては佐知子の事も田中の事も好きは好きでもLikeの好きなんかLoveの好きなんか分からへんって言うてん、早く言えばこんな事やな」


「うん…」


「なっ?田中が力になるとかって話しやないやろ?」


「うん……」


「俺は自分の気持ちがまだ分からへん不甲斐なさと言うか申し訳なさと言うか、なんやろ?自分で自分が嫌になった」


「でも…それは川上君が優しいから……」

「どこが?俺は自分の気持ちが自分で分からへんだけで…何か…情けない」


「違う…川上君は優しいから、佐知子の気持ちを知って佐知子の気持ちに応えたいんやないの?」


「うーん…分からへん、自分の気持ちやのに全然分からへんねん……と言うか恋愛の好きって気持ちが分からへんだけなんかもしれん」


「今は、しょうがないんやないかな…」


「そうやな、今は考えてもしゃーないんかもな、俺はまだまだ恋愛よりみんなとアホな事して遊びたいしな」


「そうやね、私もみんなとまだまだ遊びたいもん、佐知子もそうやと思うわ」



子供、俺はまだまだ子供だったんだと思う。



この時、田中に「田中は好きな奴いるん?」と聞きそうになったが聞かなかった。



いや、聞けなかったと言った方が正解かもしれないが、この時に聞かなかった事が後々の俺の行動に大きく影響する。



「そやけど今年の夏休みは、ほんまに色々あったな」


「そうやね、私も一生の思い出になるくらい楽しかった」


「そうやな、ほんまに楽しかったなー、もう夏休みももうすぐ終わりかぁ…早いな」


「ほんまに、あっという間やったね」


「学校始まったらまたみんなで屋上で昼ご飯やし、それも楽しみやけどな」


「私も、お昼が楽しみで学校行ってるような感じやし、ウフフ」


「それ、みんなそうなんちゃう?あははっ」



15歳の夏の暑い日だった、池の上は静かで涼しく心地良かった。



このあと、池の中をボートで色々回りボートを降りた。



途中、ちょっとお腹も減ったし公園の駐車場で売っていた、たこ焼きを買って食べながら他愛もない話しをして家路に着いた。



家に帰ると夕方で、舞がまだソファーでテレビを見ていた。



朝、出かける前と変わらない状況に何もなかったような気になったが「あっ、おかえり!美幸ちゃんと何の話しやったん?」と舞に聞かれてやっぱり時間が進んでる事を実感した。


「特に変わった話しはなかったな、結局世間話ってところやな」


「そうなん?てっきり美幸ちゃん、お兄ちゃんに愛の告白かと思ったんやけど、あはは」


「アホ、そんな事あるわけないやろ」


「案外、そうなんかと思ったんやけどなぁ」



俺は、さすがに田中と池でボートに乗って、佐知子に好きって言われた話しをしてきたなんて言えなかった。



そんな事を言おう物なら、食らい付いてくるのは目に見えている。



何故なら舞は、恋愛小説が大好きだからだ。


「そんなに俺はモテへんわ」


「そらそうやろうね、顔怖いし」


「うるさい、お前かって…」


「お前かってって何?」



舞はソファーの背もたれに両手をついてこっちを見た。


「いや、お前は可愛い…お兄ちゃんは残念や…」


「あはは、お兄ちゃんはそういうところ可愛いけど顔は怖いもんね、あはは」


「はぁ、母さん舞も怖い顔に生んでくれたら良かったのになぁ…もしくは不細工に、あはは」


「可愛くはないと思うけど、怖い顔に生まれんで良かったわ、あはは」


「なんか腹立って来たから、次に舞が風呂入ってる時に突入する事にする!」


「うわ!変態!スケベ!痴漢!最低ー!」


「言い過ぎやろ…いつから舞はこんな妹になったんやろ?全部、佐知子のせいやな」


「さっちゃんは関係ないし、お兄ちゃんが変態でスケベになっただけやん、あはは」



四年生にもなれば当然なんだが、舞はお風呂に入っている時はデリケートになっていた。


「男はみんな変態でスケベやからな」


「そんな事ない」


「現実は小説より何とかっていうやろ?そんな事ない男はおらん」


「奇なりやろ、と言うか男ってみんな変態とかスケベなん?ほんまに?」


「みんな隠してるだけで、変態でスケベやな、俺はマシな方や」


「えぇー!?ほんまに?」


「ほんまや、健太なんか終わってるで実際問題」


「健ちゃんは分かる気がする……」



ここは大袈裟に言っておいて損はないと思った。


「どうしよう?舞、結婚出来ひんかもしれん…」


「無理してせんでええやろ」


「嫌や!子供欲しいもん」


「それこそスケベな事せな子供出来へんやん、あはは」


「嘘っ!?ほんまに?嘘やろ?」


「ほんまや、嘘や思うんやったら佐知子に聞いてみ」


「えぇー!?嫌やー」



その日の夜、舞は佐知子に必死に聞いていたが佐知子に「ほんまやで」と言われて落ち込んでいた。



それからすぐに夏休みも終わり、通常通り学校が始まった。



いつも通りの学校生活、いつも通りの楽しい昼休み、佐知子もあれ以来変わりなく田中もあのボートに乗った日から会ってなかったが普段通りだった。



特に変わった事もなく、毎日楽しくみんなと過ごしていた。



秋になって、あの大きい池の公園にみんなでピクニックに行って紅葉に感動したり、連休に俺の家の庭でまた真佐雄さんがバーベキューしてくれたり、将棋やオセロやトランプもした。



商店街の駄菓子屋にもしょっちゅう行った。


俺が、望んだ日常。



毎日が楽しくて充実していた。



冬休みになると、みんな俺の家に毎日のように来てくれた。



寒いから、なかなか外で遊べない。


だから花が、家から「ファミコン」を持って来てくれた。


まだこの当時は珍しい物だった、テニスゲームでトーナメントをしたり、他にも野球ゲームやサッカーゲームでみんなで対戦して遊んだ。



いつも俺の家にこもって遊んでいるので、そろそろ外で遊ぼうかと言う話しになった。



田中が「そう言えば家に、スケート場のタダ券があるけど」


健太「何で、そういう事を言わへんのだ君は!」


田中「だって、いつも貰えるけど行った事ないし、みんなスケートってするの?」


健太「はぁ…氷上のプリンスの私に向かって何ということを…」


花「何者やねん?お前は」


佐知子「ウチ滑れるで!バックもいけるで!行こ行こ♪」


舞「舞、あんまり滑れへんけど行きたい!」


茜「舞ちゃん行くんやったら茜も行くぅ!」


俺「よっしゃ決まりやな」


田中「えぇ!何でみんな滑れるん?」


佐知子「何でって、ローラースケート滑れたらスケートも滑れるやん」


田中「私、ローラースケートもしたことないもん…」


俺「まぁ、何とかなるやろ」


花「そやな、みんなで手持ってやったらすぐ滑れるようになるやろ」


健太「田中、私がコーチをしてあげよう!」


田中「中嶋君、ちょっと怖いんやけど…」



信用度の無さに、みんな笑った。


結局、次の日に行く事になり、その日の内に場所と行き方とを調べてトントン拍子で話しはまとまった。



次の日の朝、いつも通り田中姉妹以外は俺の家に集合して、駅で田中姉妹と合流して電車に乗った。



相変わらず電車の中から、みんなのテンションは高い、久しぶりのみんなで遠出ということもあるからだろう。



誰が一番速いか?とか、誰が一番上手いか?とかで盛り上がっていた。



スケート場に着いて、貸しシューズを借りてみんなスケートシューズを履く、そしてさっそくリンク行く。



みんなは、はしゃいでいたが田中は不安げな顔をしていた。


俺「田中、大丈夫大丈夫!最初は手すりを持ってリンク一周しよ」


田中「私、全然…あかん……あっ!足が!あっ!くっ!」


俺「落ち着け!落ち着けって田中」



田中は、手すりにぶら下がるようにしてしゃがんだ。


田中「両手で手すり持って進んだら、横歩きなって足だけ手すりから離れていくのはどうしたらいい?」


俺「うーん…ほんなら俺が片手持って進んでみよか?」
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