小指も抱けない彼女
ーー
一通り買い揃えたかと、車内で一息つく。
聖以外の人がいる雑踏は苦痛でしかない。それでも、堪えた先にあるご褒美のおかげで、今は満たされたも同然だった。
「喜んで、くれるよね」
彼女のために買い揃えた物。出掛けてから、三時間は経った。三時間も、彼女のために使えたのかと誇らしくも思う。
今は昼時でも、パンを食べて空腹とは無縁か。もしくは、俺がいなくて寂しい思いはしていないか、気になってしまう。
暖房をつけ、空気清浄機も稼働中。彼女が来る部屋だから常に清潔にしてあるので、ばい菌の心配もない。
部屋にいれば安全だ。あそこには、彼女の家にいる凶暴な獣ーー人の顔を見るなりに飛びつき、顔面を舐めまわして、膝上でゴロゴロと下ろしたてのスーツを毛だらけにして、彼女が引き離そうとすれば胸板に爪立て離れまいとする、あの獣はいない。
虫一匹もいない部屋で彼女に危害を加えるものなどーー
「しまった!」
車内に備え付けられたらデジタル時計を確認する。現在、正午過ぎ。
「ちっ」
とんでもないミスを犯してしまった。