小指も抱けない彼女
寝返りを打ち、カーテンの隙間から差し込む月明かりを見た。
冬の月。氷みたいだ、彼女に触れたくなる。
カメラで逐一彼女の安否を確認しようと思ったが、きっと、仕事が手に着かなくなるだろうな。
仕事を辞めれば、この生活を維持出来なくなる。
何かいい手はないだろうかと考え続けていれば、深夜二時となっていた。
睡魔もそろそろ瞼裏にまでやってくる。彼女の寝息を子守歌代わりにしたかったが。
「……っ」
声が聞こえた。
「ひっ、く」
しゃくりの音に、鼻をすする音。
遠慮がちに、口でも押さえているのかくぐもった音色は、青に黒を混ぜたものに思えた。
「うぅ、ひくっ」
泣く彼女に声をかけようとしたが、待てと喉元で止まる。
こんな深夜に彼女が泣く理由はなんだ。
まさか、怖い夢を見たからではないだろう。
くぐもった音に、遠慮がちな鼻のすすり方は、明らかに俺を起こさないがための配慮。
昼間の涙とは比較にならない長さ。ーー俺がいたから、彼女は上手く泣けなかったんだ。
今もそう、俺が寝ていると泣いたはいいが、起こしてはいけないと抑制している。
彼女の泣く理由が分からないわけじゃない。今にでも慰めてあげたいのにーー言葉が見つからなかった。
この現状を恒久的に望む俺が、彼女にどうして声をかけられる。彼女が犠牲にーー涙を流して始めて叶う願いが叶って、嬉しがる俺は。