小指も抱けない彼女
ーー
「夜鞠くん、おかえ……り」
察しのいい彼女は、すぐに俺の変化を見て取った。
彼女を怒鳴るなんて真似はしたくないため、笑顔でいるようにしたがーーまあ、ただいまと言わない時点で丸分かりか。
「夜鞠くん、どうしたの?」
昼食、間食用に置いたサンドイッチやチョコ菓子は雀が啄んだ程度にしか減っていない。ベッド上から動いておらず、さも、しおらしく俺の帰りを待っていたとした姿勢の横、買ったばかりのスマホがあった。
無言でそれを取れば、彼女がハッとした顔となる。
「……よく、消せたね。使うの初めてだろうに」
履歴には、何も残っていなかった。
一切使われていないという状態のスマホを投げる。
壊すつもりなんかない。ソファーに軽く投げただけでも、彼女の体が震えたのを見た。
「ごめんとは、言わないよ。悪いことしたとは、思ってないもの」
全てを知った彼女は、挑むような瞳となる。
無意識に笑いが零れてしまった。
「履歴を消した時点で、やましいことをしたと思ったんじゃないの?」
「夜鞠くんが、そうやって怒るのが嫌だった」
「怒っていないよ。苛ついてはいるけど、俺は聖を怒るだなんてことはしない」
「苛つくも怒るも同じだよ。そんな顔……させたくなかった」
「させたのは君だ。泣いたんだってね、子供みたく。なんて言ったの?帰りたい?迎えに来て?夜鞠くんと一緒にいたくない?それともーー」
「やめてよ」
「やめない。聖にとっての俺は、どんな存在か知りたいんだ」
「夜鞠くんは、私の大切な人だよ。ーーでも、今の夜鞠くんは」
怖いよ、とは言われずとも分かった。