小指も抱けない彼女

「おいで、聖」

手を伸ばす。躊躇いがちな花は、それでも手の平に乗ってくれた。

こんな俺でも、彼女は信頼してくれて、身を預けてくれるのか。

俺は、最悪な人間と知っているはずなのに。

「夜鞠、くん?」

彼女を床に下ろす。
ベッドに腰掛け、足先で動く彼女を見た。

「夜鞠くん、夜鞠、くん……」

不安げに、俺の足に上り、ズボンの裾を掴む彼女。挑む瞳も潤む、怯えた顔。初めてだ、サファイアよりも綺麗に思える。

「夜鞠くん、“ギュギュが”」

裾のシワが深くなる。部屋の隅から、中央にまで、ギュギュが移動して来たからだろう。

ああ、本当に。

「“大変だね”」

「……っ」

顔を青くした彼女が、裾から上へ上ろうと悪戦苦闘している。けれども、1㎝も上らずしてずるずると落ちる始末。

それを何度続けただろうか。その間に、ギュギュはどれほど近づいて来たかな。

< 33 / 47 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop