小指も抱けない彼女
あの母親が言う、子供みたく泣くとはこのことか。あれだけ自己処理のみで済ませようとした彼女が、こうも泣くだなんて。
「もう、やだぁっ。こんなのっ、夜鞠、くんの、てあっ、手当ても出来ないなんて、こんな体いやだよぅ……!」
胸を抉られた気がした。
子供みたいなのは、俺だ。
彼女のことを考えていたつもりが、自分のことになっていた。
そうであれ、と。そうなるように、彼女を泣かせることをしてしまった。
「聖、ごめん」
「きちんと、手当てするまで許さないっーーうわあん!」
間髪入れずに返されたことには、従うしかない。ある種の拷問だ。泣く彼女を横目にしながら、自分の手当てをすることになるとは。
「聖、ティッシュ」
血を拭くためにとった物を彼女にも渡す。ひったくるかのように奪い、千切って鼻をかんでいた。
「ひくっ、や、夜鞠くん、手当て済んだら、いっ、言いたいことが、ありま、ずずっ。黙って、聞いて、くだっ、さい!」
正座し、啜り泣き混じりの言葉を何とか聞き取る。目だけでなく顔までも赤い、さくらんぼみたいだ。
「夜鞠くんは、私を信用していないのですか……!」
彼女は怒るとき、極力敬語になる。俺の笑顔と同じく、相手を怒鳴りたくない故にらしいが、耳にしたことは怒鳴られた時以上に痛恨だった。