小指も抱けない彼女
「もしもし」
『彼女が小さくなったと、病院に連絡した方でしょうか?』
随分と直球な物言いをする“奴”だった。
男も女とも分からない声色、子供ではないみたいだが、年齢さえも予想出来ない口調。
さっき連絡した病院の誰かがイタズラでかけ直して来たのかと思い、腹が立つも。
『信じる信じないも結構です。ただ、通話を切らず、質問せず、私の話を聞いて頂きたい。彼女は元に戻ります』
人の選択を求めない矢継ぎ早は、俺が聞きたいことを鼓膜に通す。
彼女とて聞こえたのだろう、シャツの襟をぐっと掴んでいる。
『“それ”は、風邪みたいなものです。知らずに感染し、特効薬はなく、されども、数日経てば自然と治癒する病。何もせずとも、彼女は元通りになりますので、決して、間違っても、誤っても、公言しないで頂きたい』
こいつが伝えたいことは、治るという安心ではなく、公言するなという注意なのだろう。
確かに、こんな“病”があれば、世の中は混乱するだろうが。
「お前、誰なんだ」
“それ”を知るこいつは、何だ。
色々と聞きたいことはあったが、そのすべては、この質問で事足りる。
電話向こうからの沈黙。顔の造形すらも想像させない霞だが、微かに唇が引き伸ばされた気がした。
『保菌者(キャリア)です。ですから、責任を取るためにあなたの彼女のような方々に連絡を差し上げています。この度は、大変なご迷惑をお掛けいたしました。世間に公になっていない以上、あなたの彼女は会社なり学校なりを休まれたとお察し申し上げますが、それら復帰において不都合あるようならば、こちらで全てフォローさせて頂きます。例を上げるならば、休まれた経緯をインフルエンザとして処置ーー診断書を作成しますし、精神的損害を受けたというのならば慰謝料の請求にも』
「本当に、戻るんですか?」
彼女の声かけに、ややあって、電話向こうの奴は答える。
『ああ、もしや、あなたが彼女様でしょうか。さぞや怖い思いをされたでしょう。大変申し訳なくーー』
「戻るか戻らないかーー本当かどうか、教えて下さい」
『……信じるも信じないもそちらの判断に任せます。言葉ほど嘘つきな輩はそうおりませんから。ただ、言わせて頂きたい。戻ります、必ず。今までの事例からして、その病は最低でも三日。長くても五日ほどで完治致します。痛みも何もなく、自然と元に戻れられますので、どうか安心してお過ごし下さい』