小指も抱けない彼女

「嘘だと思うかもしれないが、信じてくれ」の言葉が反芻した。

信用出来ない相手だが、結局のところ他に術がない。信じなければならない強制。煮え切らない思いもあるが、どちらにせよ、彼女が元に戻る方法がないならば、勝手にそのまま日は経つ。

「お前のせいで、彼女がこうなったのか」

だとすればーーどうすると言うのか。この状態を喜んでいた自分がいる以上、こいつに何かするよりもまず、自身を罰せなければならない。


彼女に許された以上、罰を求めるのは筋違い。ただ、彼女の涙の清算として、事の原因を知りたかった。

『私のせいには違いありませんが、病というのは伝染します。人から人へ蔓延するーー独り歩きをした病気は、もはや、私の手にはありません。例えばの話、あなたが自覚症状のない風邪を引き、通行人に移し、そうしてまたその通行人は別の、別の、といった具合に独り歩きするモノの責任の所在を考えるだなんて途方もない話かと。同じくして、全て私のせいだと言われるのは心外でもありますが、そう思われるあなたのお気持ちもお察し致します。こうしている間にもどこかで、この病にかかった人物がいるとなると、心が痛みます。無視できればいいのですが、こうしてあなたに連絡せずにはいられない。要らぬ責任を背負ってしまうのは、伝えずにして生まれた被害者がいたからです』

間を置き、どこか物悲しく霞は語る。

『公言してしまった方がいました。日本ではありませんが、別の国で。今その方がどうなっているかは存じませんが、“私でさえも知り得ない場所”に行ってしまわれてしまいました。病院から研究所、研究所を転々とした後ーーさて、どこに行かれてしまわれたのか。病気の性質上、その方は既に元に戻られていますが、未だに“行方不明”ですよ』

元に戻ったとしても、そうあった事実は変わらない。想像には難くない流れが見えた気がした。

ともすれば、こいつがしたいこととは、注意ではなく警告か。何もせずとも治るものに、何かをして事態を悪化させるなと。

ますますもって、こいつは誰なのか気になるが。

「戻れる、んだ……」

安心したように呟く彼女を見てしまえば、後はどうでもいい。

知ろうとしたところで、理解出来るわけもない。こんな馬鹿げた話の最終地点など、百聞したところで頭痛がするだけだ。

続けざまに謝罪やら何やらをする奴の声を強制終了させる。今の俺がしなければならないことは、彼女と共に喜ぶこと。

「夜鞠くん、すぐにでもぎゅうって出来るねっ」

「うん、聖」

いつもの姿になったら抱きしめよう。
そうして、抱きしめてもらいたい。

互いに、満面な笑顔を浮かべて。

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