恋のためらい~S系同期に誘惑されて~

……昨日の朝も見たダッフルコート。


既にパソコンの前に向いている笹山の背中に、彼女は何か言っているようだ。

2人の話す内容は聞こえないが、声のトーンから余り楽しくない話しの様に思えた。

笹山の後ろを通らないと、自分の席へ行けない部屋の作りを恨みたい。

私は小さな声で、おはようとだけ呟き、足早に2人の背中の後ろを通り抜けようとした。

「玉井さんっ」

彼女の声の尖り具合にビックリして、私は振り返る。

「昨日、笹山さんと一緒だったんですか?!」

大きな声では無かったけれど、彼女の気持ちの焦りを感じた。

私はこれまでも、こんな場面に少なからず遭遇してきた。

その都度、笹山との関係を否定して。

それは、笹山の目の前で繰り広げられることは一度も無かったけれど、仕方がない。

「午後から取引先での打ち合わせに同行しましたけれど、それだけですから」

「それだけって、どういうことですか?私、笹山さんのことお誘いしたのに、来てもらえなくって……玉井さんのせいじゃないんですか?」

「私達は出先で別れました。そこから先は、貴女と笹山さんの問題だと思います」


こういう時は強気な態度で押すこと。

下手に同情すると厄介な状況に巻き込まれる、それが私の学んだことだ。


「そんな、そんなの信じられません!玉井さんがいつも邪魔して、だって私達もうすぐ婚約するのにっ!!」
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