恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
婚約……。
頭に爆弾が投下され、私は思わず笹山を見る。
笹山の目には何の感情も映ってないように思えて、私の胸の中に色んな感情が溢れ出す。
でも、間違えてもそれを今、披露したくない。
私は大きく息を吸って呼吸を整え、一気に話した。
「じゃあ、尚更2人で解決して下さい。少なくともこんな場所で話す内容ではないと思うし、無関係な私は迷惑です」
「で、でも」
まだ言い募ろうとする彼女を笹山が目で制した。
「南さん、もうやめてくれないかな」
笹山の低い声が彼女の勢いをようやく鎮火させる。
一言で止めれるなら、さっさと止めれば良かったのに。
私は踵を返し、自分の席へと歩き出した。
今日もいつもより2本早い電車だった所為か、出社している人の数は少ない。
でも今のやり取りを、遠巻きに見られているようで、居心地が悪かった。
暫くすると笹山が私の机の前にやって来た。
「……タマもあんな突っぱね方、出来るんだな」
私の隣りの椅子に腰かけて、いつもの調子で話し出す。
笹山が知らないだけで、私は今までだって、こうやって対処してきたのだ。
それがただの仕事仲間という関係に過ぎなくても。
でも、彼女に詰め寄られるのは、勘弁してほしい。
私は言いたいことをグッと飲み込んで、笹山をちらっと見やった。