恋のためらい~S系同期に誘惑されて~

婚約……。

頭に爆弾が投下され、私は思わず笹山を見る。

笹山の目には何の感情も映ってないように思えて、私の胸の中に色んな感情が溢れ出す。

でも、間違えてもそれを今、披露したくない。

私は大きく息を吸って呼吸を整え、一気に話した。

「じゃあ、尚更2人で解決して下さい。少なくともこんな場所で話す内容ではないと思うし、無関係な私は迷惑です」

「で、でも」

まだ言い募ろうとする彼女を笹山が目で制した。

「南さん、もうやめてくれないかな」

笹山の低い声が彼女の勢いをようやく鎮火させる。

一言で止めれるなら、さっさと止めれば良かったのに。

私は踵を返し、自分の席へと歩き出した。

今日もいつもより2本早い電車だった所為か、出社している人の数は少ない。

でも今のやり取りを、遠巻きに見られているようで、居心地が悪かった。




暫くすると笹山が私の机の前にやって来た。

「……タマもあんな突っぱね方、出来るんだな」

私の隣りの椅子に腰かけて、いつもの調子で話し出す。

笹山が知らないだけで、私は今までだって、こうやって対処してきたのだ。

それがただの仕事仲間という関係に過ぎなくても。

でも、彼女に詰め寄られるのは、勘弁してほしい。

私は言いたいことをグッと飲み込んで、笹山をちらっと見やった。

< 47 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop