恋のためらい~S系同期に誘惑されて~

「……何か用?」

「どの話しからする?」

笹山は、私の顔を真っ直ぐ見ていて、その視線は揺るがない。

私の方が辛くなって、その視線をふいと外した。

「仕事の話しだけで良い」

「……言い訳無用って奴か」

笹山は小さな溜息を一つ落とすと、手に持っていた資料を見ながら話し始めた。

その姿に言いようの無い喪失感が生まれた。


こんな気持ちで仕事の話しなんて無理なくせに。


私はそんな自分の心の声をも無視した。



―――

「里沙っち~、お昼誘いに来たよ」

ひたすらパソコン画面を睨み付けながら入力作業をしていると、いつの間にか制服の上に白いコートを羽織った早紀が横に立っていた。

「なぁに?その顔」

眉間に皺が寄っていたらしく、早紀のパールピンクにネイルされた指がチョイと私のおでこを突く。

「癖にしてると、そこに縦皺が出来るわよ」

「……いいもん。皺なんて。どうせお肌の曲がり角だし」

「あれあれ?なんでそんなにご機嫌斜め?今日はもっと楽しそうな顔してると思ってたのに」

サラサラの髪で小首を傾げる早紀は、まるでお人形さんみたい。

「まぁ、そんなに根を詰めても仕方ないでしょ?ほら、笹山だってお昼行ったみたいだし、気分転換に今日は外のお店行こうよ、いいでしょ?里沙っち」

笹山の席を見ると確かにその主が不在になっていた。

……笹山は、彼女と昼食にでも行ったんだろうか?

私は促せれるまま、バッグを手に取り席を立った。

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