恋のためらい~S系同期に誘惑されて~
早紀が選んだのは、最近会社の近くに出来たカフェバー。
黒い扉が昼のお客を拒んでいるようにも見える。
早紀は何の躊躇も無くドアを開けて、さっさと4人掛けの窓際の席へ歩き出す。
店の中は日中とはいえ、薄暗い。
ステンドグラスの窓から入る日差しは、どこか幻想的だ。
「ここ、お昼もやってるの。胡散臭げでお昼は混まないだけど」
早紀がずけずけと言いながらコートを脱いだ時、後ろに居た店の人がわざとらしく咳払いをした。
「胡散臭いって、言うねぇ早紀ちゃん」
メニューを持ってきたチャラそうだけど綺麗な茶髪男は、早紀を知っているらしい。
「本当でしょ、っていうかメニュー要らないし。どうせオムライスしか作ってないくせに」
「君に持ってきた訳じゃないよ。そちらの可愛いお嬢さんに」
軽くウインクしながら、私へメニューを手渡す。
確かに……オムライスなのね。
私達がオムライスとアイスティーを注文すると、さっきのチャラ男もといヒロさんとやらは、ガラスの小皿を一つ置いた。
ん?
すかさず早紀は、勤務中に煙草なんて吸わないわよ、とヒロさんを睨んだ。
「あれ?早紀、煙草吸うっけ?」
「……昔少しね」
「ヘビースモーカーだったくせに」
ヒロさんがからかうように言うと、早紀は手でシッシッと追い払うしぐさをした。
「ここなら客もいなくて静かに話せると思って来たんだから、邪魔しないで」
「いちいち傷付くことを言う女だね」
ヒロさんは灰皿をもう一度手に持つと、ブツブツ言いながら厨房の方へ消えていった。