四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~

怪我

あの日以来、夏目は元の通りで私の遠くにいる。

でも私はあの日のことを忘れない。

夏目がそっと抱き寄せてくれたこと。

初めて詩織と呼んでくれたこと。

お日様みたいに温かい夏目の温度。


篠原さんが恋人だから、なんてそんなことはもういい。

夏目が私に優しくしてくれる、それだけでいい。


プリントを返すとき、夏目といつものように目が合った。

じっと見ると、今度は夏目も逸らさない。

時が止まったように、私の世界には夏目しかいなくなる。


なつは、最後の最後に、私に魔法をくれたんだね。

ありがとう。


思えば、なつのおかげで夏目に近づけた。

なつのおかげで一緒にご飯食べるようになれた。

なつのおかげで、一人じゃなかった。


そして、なつのおかげで、夏目の温度を知ることができた。


なつは私の天使だったんだ。

もういないけれど。

夏目と二人で見ることはできないけれど、でも、私たちの心の中で、なつはずっと生きている。


なつは単なるヒヨコじゃなかったんだ。


夏目に向かって軽く微笑んで見せた。

夏目は安心したように、ちょっと笑った。


私の心の中に、なつのさえずりが響いた。
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