異世界で家庭菜園やってみた
整然と並ぶ数十台の織機に、老若男女、入り乱れて座っていた。
「男性もされるんですね……」
思わず呟いた言葉に、ネルが反応した。
「それは、コウメさまのご意志だったんですよ」
「コウメさまの?」
「ええ。男女の区別なく、年齢の差なく、どんな種類の人間も手に職を持つべきだと仰られてね。確かに、それまでの、この国の人間たちは、一から何かを作り上げるという事を知らなかったんです。国から与えられ、用意された仕事をこなすだけでねえ。それが、どうでしょう。機織りを始めた途端、人の個性が花開いて、今ではディントの織物は名産品ですよ。他国に誇るものと言えば、魔法しかなかったディントの国が、織物でも有名になったんです。コウメさまがこの世界に来て下さって、本当に有り難かった。あの方なくしては、今のディントはなかったんですよ」
しみじみと話すネルは、愛おしげに工場の中を見渡していた。
「私が初めてコウメさまにお会いしたのは、13歳の時でした。ちょうど、コウメさまがこちらに来られた時と同じくらいの年だったからか、随分気に掛けて頂いて……。その頃、コウメさまはすでに大公さまと婚約されていましたからね。お前が最後の弟子だと仰って。ご指導の時は、それは厳しくていらっしゃいましたけど。そのおかげで、今ここの責任者でいられるんですからね。あの時、心の中で散々コウメさまに文句を言っていたのも、今では笑い話ですよ」
「……素敵な方ですね。コウメさまは」
「ええ。とても素敵な方ですよ。……あなたは、まだ迷ってらっしゃるのね?」
「え?」
「本当に、ここに居るべきなのか。迷ってらっしゃるのでしょう?」
「……」
ネルの言葉に、悠里は息を飲んだ。
「コウメさまは毅然と、ご自分の運命を受け入れていらっしゃいましたけど。あなたはまだ受け入れておられない」
「だって、わたしは……!」
「それを責めているのではないのですよ。コウメさまとあなたとでは、人生も性格も違うのですから。ただ、ほんの少し見方を変えるだけで、人はとても生き易くなるものですよ」
「……」
「お仕事の合間に、ちょこちょこ遊びにいらっしゃいな。ご自分の事に迷われたら、ここに来て、コウメさまの思いを感じると良いでしょう。何故、あの方が、ここまで異世界の事に情熱を傾けられたか。何故、すんなりと、この世界で生きて行くことを受け入れたのか。考えてみられると良いわ」
「……」
ネルの言葉がじんわり心に沁みいって、悠里はこくりと頷いた。
それを見てネルは微笑むと、「あちらからご案内しましょうね」と言って歩き出した。
それに付いて歩きながら、悠里は工場を眺めた。
広い広い工場。
ここに至るまでに、コウメさまは一度も故郷を思って泣かなかったのだろうか。
大公さまがいたから?
愛する人がいたら、人は故郷を思わなくなるものなのか。
もし、自分にもそんな人が出来たら……。
この世界が、居るべき場所になるのだろうか。
悠里には分からなかった。
いくら考えても、分かりそうになかった。
「ユーリ」
後ろを歩くウリエルの声に、背中がピクリと反応する。
「ネルさんの言ったこと、あまり気にするなよ。ユーリはユーリらしく、いればいいんだから。いてくれれば、いいんだ」
低く、柔らかなウリエルの声。
その声が、ともすれば沈み込みそうになる悠里の気持ちを温かく包み込んでくれる。
泣き出しそうになるのをぐっとこらえて、悠里は振り返ることなく頷いた。
温かくて、優しいウリエルに、いつも救われているのだと感じながら。
「男性もされるんですね……」
思わず呟いた言葉に、ネルが反応した。
「それは、コウメさまのご意志だったんですよ」
「コウメさまの?」
「ええ。男女の区別なく、年齢の差なく、どんな種類の人間も手に職を持つべきだと仰られてね。確かに、それまでの、この国の人間たちは、一から何かを作り上げるという事を知らなかったんです。国から与えられ、用意された仕事をこなすだけでねえ。それが、どうでしょう。機織りを始めた途端、人の個性が花開いて、今ではディントの織物は名産品ですよ。他国に誇るものと言えば、魔法しかなかったディントの国が、織物でも有名になったんです。コウメさまがこの世界に来て下さって、本当に有り難かった。あの方なくしては、今のディントはなかったんですよ」
しみじみと話すネルは、愛おしげに工場の中を見渡していた。
「私が初めてコウメさまにお会いしたのは、13歳の時でした。ちょうど、コウメさまがこちらに来られた時と同じくらいの年だったからか、随分気に掛けて頂いて……。その頃、コウメさまはすでに大公さまと婚約されていましたからね。お前が最後の弟子だと仰って。ご指導の時は、それは厳しくていらっしゃいましたけど。そのおかげで、今ここの責任者でいられるんですからね。あの時、心の中で散々コウメさまに文句を言っていたのも、今では笑い話ですよ」
「……素敵な方ですね。コウメさまは」
「ええ。とても素敵な方ですよ。……あなたは、まだ迷ってらっしゃるのね?」
「え?」
「本当に、ここに居るべきなのか。迷ってらっしゃるのでしょう?」
「……」
ネルの言葉に、悠里は息を飲んだ。
「コウメさまは毅然と、ご自分の運命を受け入れていらっしゃいましたけど。あなたはまだ受け入れておられない」
「だって、わたしは……!」
「それを責めているのではないのですよ。コウメさまとあなたとでは、人生も性格も違うのですから。ただ、ほんの少し見方を変えるだけで、人はとても生き易くなるものですよ」
「……」
「お仕事の合間に、ちょこちょこ遊びにいらっしゃいな。ご自分の事に迷われたら、ここに来て、コウメさまの思いを感じると良いでしょう。何故、あの方が、ここまで異世界の事に情熱を傾けられたか。何故、すんなりと、この世界で生きて行くことを受け入れたのか。考えてみられると良いわ」
「……」
ネルの言葉がじんわり心に沁みいって、悠里はこくりと頷いた。
それを見てネルは微笑むと、「あちらからご案内しましょうね」と言って歩き出した。
それに付いて歩きながら、悠里は工場を眺めた。
広い広い工場。
ここに至るまでに、コウメさまは一度も故郷を思って泣かなかったのだろうか。
大公さまがいたから?
愛する人がいたら、人は故郷を思わなくなるものなのか。
もし、自分にもそんな人が出来たら……。
この世界が、居るべき場所になるのだろうか。
悠里には分からなかった。
いくら考えても、分かりそうになかった。
「ユーリ」
後ろを歩くウリエルの声に、背中がピクリと反応する。
「ネルさんの言ったこと、あまり気にするなよ。ユーリはユーリらしく、いればいいんだから。いてくれれば、いいんだ」
低く、柔らかなウリエルの声。
その声が、ともすれば沈み込みそうになる悠里の気持ちを温かく包み込んでくれる。
泣き出しそうになるのをぐっとこらえて、悠里は振り返ることなく頷いた。
温かくて、優しいウリエルに、いつも救われているのだと感じながら。