苦い鉛筆のようなチョコレート
曖昧な日常
雨が降り出した。
こんな日に限って、折り畳み傘を忘れる、残念な女子力。
私は最寄り駅に着くと、持っていたハンドタオルを頭にのせて足早に家路についた。

5分くらい歩いた道中、ジャケットのポケットから携帯が震えた。
「メール…こんな時間に珍しい」
友達も多くなく、彼氏もいない私に連絡をしてくる人なんてそうはいない。
家族からたまに連絡はあるけれど、23時に連絡をしてくるなんてまずありえなかった。

『今仕事終わったんだけど、これから家行っていい?』

一史からのメールだった。

一史とは同じ大学に通っていた。
大学時代に接点はなく、話したこともなかったがお互いなんとなく知っていた。
卒業してからの職場が近く、たまたま、本当にたまたま連絡を取るようになった。

一史は携帯ショップの店員をしていて、私が自分の携帯を修理に出した時に話をしていてお互いを思い出した。
その時にこっそり、連絡先を交換した。

一史とは一回寝た。
あいつは元から軽い感じだった。
寝たところで幸せになれるわけないって、私のものになるわけじゃないって知ってた。

それでもいいやと思ったやさぐれた夜に抱き合ったのが、たまたま一史だっただけだ。
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