【完】そろり、そろり、恋、そろり
食べる物も食べてしまい、そこからは今日の本題に。この訪問の一番の目的は、2人の写真を持ってきてもらうこと。俺たちが任されているのは二次会だから、もちろん披露宴で使用するものは除いてもらっている。


すでに入籍を済ませている事は知っているけど……いよいよ挙式か。2人の結婚報告を聞いて素直に喜んでいたけれど、こうやっていざ結婚がリアルなものになってくると、寂しさというか取り残されていくような感がある。よく知った2人の結婚は、友人の結婚よりも自分ひとりが置いていかれる感覚が強い。俺の周りには完全に独り身の人が他には居ないから、こういう想いを吐き出す相手も共有してくれる人もいないけれど。それがまた寂しいんだよな。


なんて幸せそうな2人を目の前にして、マイナスなことばかり考えてしまう。心から祝えていない自分に怒りすら覚える。


俺にも2人みたいに笑い合える相手が欲しい。


……やっぱり思い浮かぶのは、今も隣の部屋に居るかもしれない彼女の顔。今だからこそ、彼女との出会いが運命であって欲しいと心から思う。俺にも幸せを掴む権利くらいあるはずだ。






「大山、頼んだから」


「よろしくお願いしておきます」


2人の声にハッとする。完全に思考がトリップしていた。


そうだ、用件も済ませた2人は帰ろうとしているところだった。何を考えていたんだ俺は。慌てて思考を現実へと引き戻した。


「借りた写真は後日持って行きます。当日楽しみにしていてください」


どうだろうか、ちゃんと2人を祝う気持ちが表情に出ているだろうか。悲しい顔が見え隠れしていないだろうか。


小川と目が合うと彼女はニコッと普段は見せてくれない優しい顔をしていた。そして、口を開いた。


「さっきは笑っちゃったけど、大山さんは焦る必要ないと思いますよ。せっかくの出会いだったんですし、焦らずにその出会いを大事にして下さい。2年も暖めた出会いなんでしょ?だったらまたじわじわと、仲を深めていけばいいんですよ。大山さんって、知っていくうちにじわじわと良さが増していくタイプですから」


……意外な言葉に、驚いて間抜けな顔で停止してしまった。まさか彼女からこんな言葉を聞くとは思っていなかった。ちゃんと俺のことを見て、真剣に話をしてくれていることが心から嬉しいと思った。俺、後輩に恵まれてたんだな。もちろん先輩にも。


山下さんも柔らかい笑顔で小川の話にうんうんと頷いてくれている。そして「また週明け」という言葉を残し、2人は仲睦まじく帰っていった。






昨日、今日で感情の浮き沈みが激しかったからか、じんわりと目に涙が溜まるのが分かった。格好悪いから絶対に2人には隠し通すけど。


焦らずか……まだ知り合ったばかりなんだ。まずはご近所付き合いから始めよう。それだけでも、今まで存在すら知らなかったんだ、出会うっていう大きな一歩が終わったから、今度は少しずつ歩み寄っていこう。
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