【完】そろり、そろり、恋、そろり
久しぶりに会う友人は、どこか緊張した面持ちで、けれど幸せそうで、私が知る中で一番男らしい顔をしていた。奥さんになる人は、小柄で色白でとても可愛い人だった。


「「「おめでとうー」」」


同じテーブルにいる、中高の同級生達と声を揃えてお祝いした。同級生と言っても、同じテーブルに女性は誰もいないけれど。


私を披露宴に招待したのは、西島守という名の男。彼とは中学・高校と6年間クラスが一緒で、部活も一緒だった。一言で言うと腐れ縁。そして、もう1人腐れ縁で、部活は違ったけれど、同じく6年間クラスが一緒だった友人が私の隣に座っている。


「……俺の式には来なかったのにな」


一見棘のある言い方だけど、目は優しく笑っていて、ふざけて言っていることがよく分かる。こんな冗談も言えるような、気を使わない友人の1人。


「ごめん。だって、2人とも日程近すぎだから。さすがに、2週続けて日曜に休みが取れなかったのよ」


そう、隣にいる友人は、つい先日結婚式を挙げた。こちらからも披露宴へ招待されたけれど、仕事の都合でどちらかしか出席できなくて、部活も一緒だった守のほうを選んだ。


「確かに、すごい偶然で、俺もびっくりした」


「……礼央も、おめでとう」


そういえば、直接伝えていなかった事を思いだして、お祝いの言葉を述べた。あの優柔不断な礼央が先に結婚しちゃうなんて、夢にも思っていなかった。失礼だから声には出さないけれど。


「ありがとな」


「奥さんの写真とかないの?」


どんな人が礼央の奥さんになったのか、見てみたいという好奇心が湧き出てきた。長身で顔立ちも良い礼央のことだから、きっと可愛い奥さんなんだろうな。


「あるにはあるけど……そうだ、今日二次会行く?」


「大学の人が沢山くるらしいから、二次会は行かないつもり」


奥さんの話をしていたのに、なぜ急に二次会の話しになったのか、理解できなかった。もしかして、話を逸らされただけなのか。


「俺も行かないんだけど、ちょうど麻里が見たがってる奥さんが迎えに来るんだよな」


彼の言葉に首を傾けた。それは会わせてくれるということなんだろうか。


「ついでにさ、家に来ない?紹介もしたいし」


あと式の写真もあって懐かしい顔が沢山みれるから、と礼央は付け加えた。


彼の誘いに、勢いで頷こうとたけど、やっぱり躊躇ってしまった。だって、拓斗君の顔が思い浮かんだから。昨日からろくに話も出来ていない、彼氏の顔が。


別にやましいとこがあるわけではないし、話を出来なかったのは私のせいではない。だったら、構わないよね。


「分かった、お邪魔しようかな。奥さんに挨拶しておきたいし」


私は悪くないと言い聞かせながら、頷いた。
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