【完】そろり、そろり、恋、そろり
懐かしい顔ぶれに会えて、幸せそうな友人を見て、来てよかったと思った。披露宴は2人の門出をお祝いするように、あたたかな空気に包まれていた。


式に出席するたびに思うのは、結婚っていいなってこと。今まではそんな考えが浮かんでも、相手もいないじゃないかと、なんだか虚しい気持ちになっていた。


けれど、今日は違う。彼氏と呼べる相手がいて、その上でいいなって感じた。……どうしよう、彼に会いたくなってきた。


披露宴の終わり、新郎新婦にお見送りされながら、会場を後にした。式場のロビーまで礼央と二人並んで移動した。


「もうすぐ迎えくるってさ」


会場を出たと同時に礼央は電話を始めたけど、相手は奥さんだったらしい。電話か……私もしようかな。


「ごめん礼央。ちょっと私も彼氏に遅くなるって電話してくる」


すぐには帰らない分、声を聞きたくなった。それに、拓斗君は朝目覚めても自分の置かれている状況が理解できていなかっただろうし、今日のことを詳しく話せていなかった、そして今日一日連絡を取っていなかったから、そわそわと不安になっている頃じゃないかと思う。


そうなればいいと思っての行動だったかど、そろそろ私の方が彼を求めてしまっている。幸せ一杯の光景を目にしたからかもしれない。





――RuRu

『――ガタっ……もしもし、麻里さん?今どこ?』


2コールで繋がった電話の向こうからは大きな物音と、私が求めていた声が聞こえた。そして、焦ったような口調で質問が続けられた。


「今式が終わったところ」


『もう帰ってくる?』


「今から、ちょっと友達の家に行って来るね」


『……そっか』


落ち込んだような声で彼は答える。犬のような耳と尻尾がシュンと項垂れるような、そんな拓斗君が浮かんで、つい口元を緩めてしまった。


『ねえ、麻里さん……「麻里、迎えが着いたって。行こう」


「ごめん、拓斗君。もう行くから、また後で連絡する」


とりあえず、まだ帰れないことを伝えたころ、迎えが来たと礼央が呼びに来てしまった。奥さんを待たせるのはまずいと思い、早急に拓斗君との電話を終わらせてしまった。


また後から電話すればいいよ……ね?
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