だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
息が、止まりそうだった。
山本だけなら、そんなに珍しい名前ではない。
けれど、湊の名前は多くはない。
しかも苗字まで一緒なのだ。
別人であるはずがない。
「山本君、優しいから。絶対送ってくれると思うんだよねぇ。さっきも背中に手を当ててくれたし。脈ナシじゃないと思うんだけどなぁ」
聞けば聞くほど気分が悪くなっていく。
ここにいることを確かめれば、それで済む話なのかもしれない。
けれど、湊が会社の人と飲んでいるところを邪魔するのは、良くない気がする。
私の我が儘で『帰ってきて』なんて。
湊にだって付き合いがあるはずだから。
まずは一刻も早くこの場所から立ち去りたかった。
ただ、二人の会話の続きが気になって、そちら側から意識を引き戻すことが出来なかった。
耳障りな会話を何とか振り払って、優希の待っている席へ向かう。
別人、かもしれない。
そんな訳はないか。
でも、たかが背中に手を置いただけ。
大人っぽい綺麗な女の人が会社にいて、その人と一緒に飲んでいるだけ。
付き合いで。
まさか、湊が送って行くわけがない。
そんなはず、ない。
大丈夫。