だから私は雨の日が好き。【冬の章】※加筆修正版
「そこにいるんでしょう。出てきて」
静かな声が聴こえた。
感情を押し込めた、何も読み取れない声。
「出てきなさいよっっ!!!!」
社内には、もう私達しかいない。
大きく発せられたその声が、静かな社内に吸い込まれていくのを聴いていた。
「亜季っっっ!!」
「離して!圭都の口からじゃなく、あの子から聴きたいのよ!」
圭都と杉本さんの声がする。
前よりも、もっと近くで。
逃げたかった。
けれど、私は動けずにいた。
「俺が言ったことが全てだ」
二人が動く気配がする。
小さなこの部屋の中では、些細な気配でさえ充満してしまう。
見えないからこそ感じるその感覚を、静かに受け止めていた。
「大切にしてるんだ。あいつの弱さを受け止めてるのは、俺だ」
受け止めている。
そう。
受け止めてくれている。
甘えだと、知っていて。
「それは圭都が我慢をしているからでしょ!?大切にされてるの!?あの子は、圭都を大切に出来るの!?」
胸が痛い。
どうしようもなく。