first Valentine
あれから、65年の月日が流れた。


甘い香りを茶の間まで漂わせた沙織は、満足げにフミのもとまでくると、1時間半は冷蔵庫で冷やさなければならないからと、フミの座るこたつに足を差し入れた。

こたつの上には次々と可愛らしい箱が並べられていく。

「ずいぶんと沢山つくるんだねぇ」

フミが問いかけると、沙織はその頬をさらに紅くさせながら、「友達にもあげようと思って。それから、いちおうお父さんにも」と答える。

嬉しそうに微笑む沙織を見つめるフミの顔にも笑みが浮かぶ。

「おばあちゃんはさ。あんまりチョコとか食べないの? 甘いものは好きだよね?」

「そうだねぇ。こういったものは自分で買ってまで食べないからね。時々頂いた時にはおいしく食べてますよ」

フミの返答を聞き、沙織は嬉しそうに「じゃ出来あがったら、おばあちゃんが一番に試食してね!」と話す。

フミは「はいはい」とにこやかに頷く。


それから、1時間半。フミはバレンタインの風習やチョコレート菓子を作るという未知の世界について、気分が高揚したままの沙織から延々と説明を受けることとなった。
 
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