first Valentine
時代は変わったものだ。

また大きな叫び声を上げつつラッピングまで丁寧に仕上げた沙織が立ち去った後、またいつもの静寂を取り戻した空間で、フミは一人物思いに耽っていた。


堂々と「好き」という想いを相手に伝えることのできる日。

いつの間にそんな日ができていたのだろうか。


フミは目の前に置かれたチョコレートをひとつ指先でそっと摘まむと、ゆっくりと頬張った。
沙織が「大好きなおばあちゃんにも、お礼を兼ねて」とおいていったものだ。

それは口の中でゆっくりと溶けだし、フミの心の中にまで甘やかな空気を作り上げてくれる。


あの人はこんなもの、口にすることのないまま逝ってしまった。

フミの心に16の頃の記憶が蘇っていく。

和夫と過ごした短い幸せの記憶が。
 
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