恋愛しない結婚
その午後の打ち合わせは順調に進んで、長期のスケジュールの最終決定が双方の合意でなされた。
奏は、入社10年の32歳にしては異例の速さで昇進しているらしく、肩書きは『課長』だ。
部下もかなりいるらしく、仕事の進め方をみてもそれは納得できる。
おまけに見た目も上等とくれば、周りの女が放っておかないと思うんだけどな。
初対面の私に突然プロポーズする以前に、女性からプロポーズをされている雰囲気もあるし。
結婚に焦らなくても、その気になればすぐにバージンロードを歩けそうだ。
集中しなくてはいけない打ち合わせの最中なのに、奏のことばかりが頭の中を占めて、無意識に奏の姿を追いながら、そんなことを考えていると。
今まで奏がどんな女の人と付き合ってきたんだろうかと気になってくる。
さっき葉山くんのファンの女の子達から私を庇ってくれたみたいに、恋人には優しく愛情を注いでいたんだろうな。
32歳という年齢だし、あんなに格好いいし、女の人なんて周りにいっぱいいたはず。
というよりも、今だって奏を狙っている女性がいてもおかしくない。
突然私にプロポーズなんて、単なる気まぐれで、本命は他にいたりして。
資料を見ながら、どうにか気持ちを打ち合わせに集中しようとするけれど、話し合いの中心にいる奏への気持ちが、どんどん大きくなっていく。
彼の側にいると安心して、落される甘い言葉を信用してしまいそうになる。
自分はこんなに簡単な女だったんだなあと、驚きながらも、そんな自分が嫌いではなくて、何だか照れくさかった。