恋愛しない結婚


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珍しく定時で仕事を終わらせて帰る私に、周りみんなが驚いていた。

いつも終電近くまで残る私が終業の合図とともに『お疲れ様でした』と部署を出るんだから、そりゃ驚くよね。

俯き、一人笑ってしまった。

そうやって笑顔を作りながらも、気持ちは緊張感で溢れているんだけど。





普段よりもかなり早い時間に輝のお店の扉を開けた。

開店早々で、お客さんもまだ少ない。

テーブル席にサラリーマンらしき男性数人が腰かけている程度で店内は静かだ。

深夜の様子しか知らない私には違うお店のように感じられて、ほんの少し足が止まったけれど、それはお店の様子からだけではなくて、私自身が緊張しているからかもしれない。

カウンターの中にいた輝は、私を見た瞬間驚いたように眉を寄せたけれど、すぐに苦笑いを浮かべた。

私がここに来ることを予想していたようだ。

「……いつもの水割りか?」

「ううん。今日は何かノンアルコールでお願い」

「了解」

それも予想の範囲内なのか、手際よく作ってくれたのはミックスジュース。

「夢の大好物だろ」

ふっと笑う輝の顔には、小さな頃から私を癒してきた懐かしい笑顔。

大人になってそれぞれの人生を歩み始めてからは滅多に見せてくれない弟としてのその笑顔が単純に嬉しい。

「輝に聞きたいんだけどさ」

「奏さんの事だろ?プロポーズの返事はしたのか?」

私の声にかぶせるように、輝は即座にそう言った。

「奏のことだって、よくわかったね」

輝の勘の良さに驚く私に、なんてことないように輝は笑った。

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