恋愛しない結婚



私は慌ててかばんからスマートフォンを取り出して画面をタップしたけれど、そこではっと気づいた。

「電話番号、知らない……どうしよう」

何度か言葉を交わす機会はあったのに、今まで連絡先の交換すらしていなかったことを思い出して泣きそうになる。

というより、こぼれそうになっていた涙がとうとうこぼれ落ちてしまった。

「どうしよう、電話番号……輝、知らない?」

涙を流しながらぐすぐすとそう言う私に、輝は顔をしかめた。

「たとえ知っていても、まだ輝さんの恋人でもなんでもない夢になんて教えるわけないだろ?
それに、電話番号を知らないなら、会いに行けばいいだろ。謝るなら直接顔を見て謝れよ」

「あ……なるほど」

輝の言葉にすとん、と落ち着いた私は、ようやくハンカチで頬の涙を拭い、目の前のミックスジュースを口にした。

「おいし……。桃缶がいい味出してるね。輝が作るミックスジュース、大好き」

「だろ?夢が小さな頃から大好きだったこのミックスジュースは、この店の隠れメニューで好評なんだ」

「ふふっ。そっか」

弟のくせに、私よりもしっかりしていた輝は、私が落ち込んだ時にはいつもこのミックスジュースを作ってくれていたっけ。

黄桃と白桃のバランスが絶妙のこのミックスジュースを輝がまだ作っていたことが嬉しくて、ほんの少し気持ちも軽くなった。

「輝、ちょっと行ってくる。奏の会社に行って、捕まえてくるよ」

「は?捕まえるって、夢が輝さんに捕まったんじゃないのか?」

「ううん。捕まりたいのに逃げたんだけど、やっぱり捕まりたいっていうか。うーん、私が捕まえたいっていうか……。とにかく行ってくる」


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