恋愛しない結婚
「あ、あのね。私………葉山くんの気持ちを知らなくて」
いきなり結婚なんて言われても、それに応えられない。
「俺は、入社してからずっと、砂川さんのことが好きでした」
私の手を握る力がぐっと強くなって、引き寄せられて……葉山くんの顔が近づいてくるのに、心も体も固まったままの私は動けない。
「や、やだ……やめて」
顔をそらさなきゃと思いながらも動けなくて、葉山くんの唇が落とされるのを覚悟した。
ぎゅっと目を閉じた瞬間、強い力で肩を抱かれて体が浮いて。
はっと目をあけると、荒い息をしながら葉山くんを睨む奏がいた。
私を離さないようにきつく抱きしめてくれる奏に気付いた途端、私の体からは力が抜けた。
「人のもんに手を出すな」
奏の低い声。
奏にしがみついているせいで、胸の奥から響いてくる。
そして、一層きつく抱き寄せられた。
私が困ってる時に、奏の胸に包まれるのは今日二回目だ。
不思議なほどに落ち着いてきて、ずっとこのままでいたいと思う。
「夢が好きなら、もっとこいつを守ってやれよ。ファンだか知らないけど他の女のやっかみや嫉妬から守ってやれ」
「な。俺は……」
「どうして、好きならとっとと自分のもんにして、何を言われてもこいつが安心できるようにしてやらなかった?」
奏の低い声は、単なる思いつきで言ってるんじゃないってわかるほどの確信に溢れている。