恋愛しない結婚
その後、奏に連れて来られたのは外壁がチョコレート色の10階建てのマンションだった。
奏の部屋は5階らしい。
「本当、幸先いいよ。夢に俺の気持ちをはっきり言えて、ずっと気になってたあの……葉山くんだっけ、夢のことを諦めさせられたし、一気にかたづいて良かった」
満足そうな吐息は、心なしか不安げな気持ちを隠してるようにも思えて、ふと見上げると。
「時間がかかったけど、手に入れることができてよかった……」
ホッとした瞳の温かさ。
私の手を握る力も強くなった。
「やっと……って?」
手に入れたって私の事……?
疑問形でいっぱいだろう私の顔をちらりと見ながら、一階のオートロックを解除しようとしている奏はそれには答えない。
「暗証番号を押すから覚えろよ」
「え……?あ、うん」
慌てて奏の指先を見てその指が示す暗証番号を覚えた。
そして、開いた扉を通り抜ける。
「部屋の合鍵も渡すからなくすなよ」
当たり前のような言葉に当たり前に頷く私だけど、これって、不自然じゃないのかな。
奏にとっては女の子に部屋の暗証番号を教えたり合鍵を渡したりすることは当然なのかと、少し落ち込んだ。
とはいっても、合鍵を貰えるほど気を許してくれていると思えば嬉しいのも確かだ。