恋愛しない結婚
奏が勤務する銀行とは長く一緒に仕事をしているから、かなりの資料が渡っていると思うけど、こんな昔に作った資料を奏が持ってるなんておかしい。
奏と一緒に仕事をするのは今回が初めてだと思うんだけど。
かなり厚みのある資料のほとんどは、私がこれまでに作成した資料で、プログラムの内容の詳細やトラブル時の対応方法、今後銀行に求めるハードの提案等が記されている。
日付を見れば、この3年の間に作った資料ばかりだ。
赤い下線が多く引かれ、ところどころ付箋も貼られている。
何度も読み返されたとわかる、適度に皺が入った紙には日焼けすらある。
どうしてこんなにたくさんの資料がここにあるのかわからなくて首を傾げていると。
「……夢の名前を初めて知ったのは、書類の検印なんだ」
振り返ると、スーツからジーンズに着替えた奏がいた。
そして、私の隣に座り、無造作に資料を手に取った。
「夢の仕事ぶりは、俺の銀行の中では抜群の評価なんだ。確実で丁寧。トラブルだって進んで対応してくれるし」
「……そんなの当然」
「提出される資料は見やすいし無駄がない。直接仕事が絡んでない部署にも参考資料としてまわるんだよ」
「え、嘘」
優しく笑う奏は嬉しそうに私の肩を抱き寄せた。