恋愛しない結婚



「どこまでも評判のいい砂川 夢という女はどんな女だろうって思ってたら、単なる愚痴っぽい酔っ払いの……可愛い女だったよ。輝さんの店で知った時は笑えたよ」

その時の私の様子を思い出したのか、奏は我慢できないようにくくっと肩を震わせた。

「単なる酔っ払いって、私の事……?」

思いもよらなかった奏の言葉に、混乱する気持ちを隠せないまま、声も上ずっている。

「そ。輝さんに『真面目に男と仕事してるだけなのに結婚相手として狙ってるって意地悪言われる』
って泣きながら酔っ払ってて。すごい女だなあって離れた席から見てたら、トラブルがあったっていう会社からの呼び出し電話にためらうことなく店を飛び出していったんだ」

「……よく覚えてないけど」

それでも、輝の店で酔い潰れて愚痴るなんて……思いあたる事が多すぎて否定できない。

輝の店に行く時はいつも、精神状態がぐらぐらで落ち込んでいる時だからなあ……。

「そのあと輝さんに聞いたら姉だって言うし、『夢』って名前が珍しいからもしかしたらと思って聞いたら、やっぱり俺の銀行のシステム担当の会社だし。その時、俺は一発で夢にはまったんだ」

そう呟いたと同時に更につよく肩を抱き寄せられて、唇に落とされる奏の唇。

甘く深いキスは、ゆっくり丁寧に味わうように私の意識をも取り込んでいく。



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