隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話
「今、イタリアの方で仕事していて、たまに急に帰ってくるので周りが焦る」

「焦るって何よ?」
そう言って笑い
桜ちゃんに頬ずりをすると「あんなちゃんのおようふく、ふわふわ」って桜ちゃんは楽しそうにコートを触る。

「ラビットファーだよ」

「うさちゃん?」

「そう。かしこいぞ桜」

仲がいいんだな。

とっても綺麗な黒のファーコート高そう。
イタリアで仕事っておしゃれ。

「あ、玄関に花を置いてきた。取って来て紀之」
夫をアゴで使い
抱いている桜ちゃんを降ろして、品定めをするように私の元へ歩いてくる。

「あんなちゃん。いくちゃんママですよ。さくらのママです」
真ん中に入り
桜ちゃんが説明してくれた。

近くで見ると迫力ある。
身長は私と同じくらいだけれど
威圧される私。

「初めまして。郁美です」
初めて会う紀之さんの親戚に、頭を下げると

「私……認めてないから」

冷たい声で私に言う。

「紀之の奥さんは、ひとりしか認めてないから」

桜ちゃんの耳元には聞こえないくらいの声を出し、私にそう言った。

その目の奥には怒りのまなざしが見えた。

「ほら」って
紀之さんは大きな花束を抱えてリビングに入る。

「おはなきれい」
桜ちゃんが驚くほどの、綺麗なお花。

「奥さんの仏壇に飾って」
機嫌の良い声を出し「桜のお母さんに会いに行こう」と、桜ちゃんの頭を撫でて和室へ行ってしまった。

きつい香水の残り香が
私の心を乱していた。

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