隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話
「紀之さん」

「はい?」

「私、そんな物欲しそうな顔してないよ」

「知ってますよ」
今度は彼が吹き出して笑う。

「毛皮も欲しくない」

「了解」

ただ私の欲しいのは
平和で穏やかな生活。

「桜ちゃんが、杏奈さんと仲がよくて、紀之さんとも楽しそうだったから、私……嫉妬して、自分の居場所がなくて、落ち込んでしまって、ケーキまで買ってきてくれた桜ちゃんに笑顔が出なかった」

彼の指が私の頬をなぞり
そっと優しく唇を触る。

「正直な郁美さんが好きです」

自分の顔を近づけ
重ねるだけのキスをする。

「ケーキ屋さんの前を通ったら、桜が『いくちゃんママにおみやげ!』って僕の手を引っ張りました」

「ありがとう」

優しい桜ちゃん。

「桜は郁美さんが大好きなんです」

「私も桜ちゃんが好き」

「僕とどっちが好き?」

「桜ちゃん」

「言うと思った」

甘い甘いキス。

「杏奈は仕事で戻って来たけど、すぐイタリアに帰るらしいから」

「……うん」

「もう来ないと思う」

「うん」

「嫌な想いをさせて、本当にごめん」

彼の真剣な声に
私は首を横に振る。

心配かけちゃった。

ごめんなさい。

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