隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話


夫は学級委員長になった。

「お父さんすごい」

桜ちゃんを真ん中にして手を繋ぎ、春の風に踊らされながら歩く私たち。

「すごいだろー」
桜ちゃんに応える紀之さん。

スゴいわ
本当にスゴい。

まさかあそこで立候補とは……それも学級委員長。

最初は何とか委員とか、専門職にしてほしかった。

「どーするの?」
責任の大きさが
ズシリと妻の背中にもかかる。

「どーするって?」
普通に桜ちゃんの手を引っ張り、ジャンプさせて平然とする夫。

「そんな大役できる?みんなに迷惑かけたら大変だよ。クラス行事とか考えつく?」

「去年の資料読んだら大丈夫。親子カレー教室とか、親子焼肉とか体育館を借りてドッジボールとか、ミニ運動会は?陶芸教室がいいけど高度ですね。親子でトンボ玉を作るとか、あっ。相川 進を巻き込んで文章教室とかどうでしょう。小さな自分だけの本を作るとか……」
楽天的すぎるぞ夫。
てかスゴイねその山のような発想。
ヤル気満々でした?

黙り込む私に「郁美さん」って、紀之さんは優しく声をかけてくる。

「参加するなら楽しまなきゃ。嫌々やるより気分よく楽しく頑張ろう」

そうか。
そうだよね。
紀之さんの言葉にゆっくりうなずく。

繋がれた桜ちゃんの、小さなぷっくりした手が温かい。

お母さんが言ってたっけ
『子供はすぐ大きくなる。あんたも自分の子供が出来たら忙しくなるから、今のうちに、桜ちゃんとの時間を大切にしなさい』って……。

言われた時はわからなかったけど
たぶん
こーゆー事なんだろう。

「いくちゃんママ?」

「なぁに?」

「いくちゃんママのスカート、ふんわりしていて、チューリップのお花みたいで、とってもカワイイ。いっぱいお母さんたちがいたけど、いくちゃんママがいちばんかわいかったよ」

マジで泣ける事を言う。

「ありがとう」頭を撫でて返事をすると、紀之さんも微笑む。

「『桜ちゃんのお母さんって、お姉さんみたいに若くて可愛いね』って、せんせいがいってた」

その一言で立ち止まる夫。

そして
「やっぱり役員降りようかな」
怖い顔でそう言った。

こんな男に学級委員長をやらせて
大丈夫なのかうちのクラス。
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