溶ける温度 - Rebirth -
先ほどから私を厳しい口調で咎める彼女、私の大学の友人美弥(みや)は、少し離れたところにいたマスターに同じものひとつ、と呼びかける。
さらにアルコールを摂取するつもりらしい。
「男なんて最初の外面だけがいいのよ。そこからはどんどん欲とか素の部分がでてくるものだから」
「分かってたよ」
「分かってなかったから、こういう結果になったんじゃないの」
「……まあ」
「特にあいつは口がうますぎたわよ。よく考えてみたらおかしかったわ。
だって派遣社員でいつ生活が成り立たなくなるか分からないような女を、一流企業に就職している人間が出会って間もないのに結婚考えるわけないもん」
「それは言い過ぎ」
「だってほんとじゃない。現に明季は、捨てられてるじゃないの」
ぐ、と喉まで出かかっていた言葉が私の胸の中に落ちていった。
美弥の言っていることは、そのとおりであり、まぎれもない事実。
彼女はウソを言わない。私を優しく慰めることもしない。そうすることで今回に懲りて私を前を向かせたいのだ。
マスターが新しく作ったジントニックを片手に眉を下げている。