齧り付いて、内出血
心の声は懇願にも似ていた。
どくんどくんと心臓がいやに激しく脈を打つ。
嫌な予感がする。
そしておそらくそれは勘違いなんかじゃなくて――。
「ああ、岡部さん。」
勘違いだったら、どれだけ良かっただろう。
どんなに嫌だと思ったところで、久世は声のほうを振り返った。
久世がシュウゴであるという事実に打ちのめされる。
私、名前も知らなかったんだ。
初めて好きになった人の名前も知らなかった。
久世シュウゴ。久世の名前は、シュウゴ。
「こんなところで奇遇ですね!――あの、そちらの方は?」
「大学の、後輩。」
さっきまでと少しも変わらない声で平然と答えた久世。
間違ってない。
一緒の時期に大学に通ってこそいないものの、確かに私は同じ教授に師事した大学の後輩。