苦恋症候群
「っちょ、」

「──あれ、森下さんまだ会社残ってたんですか?」



突然聞こえた第三者の声に、私はパッと後ろを振り返った。

慌てたように、私の右腕から田口副部長の手が離れる。

背後にいた人物は、ゆっくりとこちらに近づいてきた。



「……葉月(はづき)さん?」

「はい。おふたりともお疲れさまです」

「あ、ああ、ご苦労さま」



涼しい表情で本部とATMコーナーを繋ぐ自動ドアをくぐって来たのは、本店勤務のテラーである葉月美礼(はづきみれい)さんだった。

この建物は1階が本店で、2階から6階までが本部になっている。つまり本店の職員も当然、この通用口を使うことになるわけで。

だからここで彼女に声をかけられたからといって、別段驚くようなことではないんだけど……あまりのタイミングの良さに、私は若干呆然としながら葉月さんを見つめてしまった。
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