苦恋症候群
たしか葉月さんは、私より少し年下のはず。

思い返してみてもあまり話した記憶はないけれど、ふわふわな髪に綺麗な顔立ちをしている彼女のことを、よく男性職員がかわいいと言っているのは聞いたことがあった。


彼女はハーフアップにした茶色いウェーブがかった髪をふわりとなびかせながら、小さく首をかしげた。



「森下さん、今日彼氏さんが車で迎えに来てくれるんですよね? まだいらしてないんですか?」

「え」



今日初めて会話をする彼女の口から出た身に覚えのない話に、一瞬疑問符が浮かぶけど。

私はすぐに納得して、今度は自分から話を繋げる。



「うん、そうなの。仕事が長引いてるみたいで……でもさっきメール来てたから、もうすぐ着くみたい」

「そうですか、よかったですね」

「あ、も、森下さん、彼氏が迎えに来るんだね。じゃあ僕は、お先に」



私たちの会話を聞いた田口副部長が傘を広げながら自動ドアのボタンを押し、そそくさと外に出た。

完全にその姿が見えなくなった後、私ははあっと深いため息をつく。
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