苦恋症候群
「どうする? 先に何か食べ物買おうか」

「そうだね、食べながら見たいな」



私の問いかけに、麻智がニコニコ笑顔でうなずいた。

やっぱり、文哉さんといるときの麻智はいつにも増してかわいいな。

ただ彼の隣に並んでいるだけで、キラキラと輝いて見える。

恋をしてこんなふうに変われるのって、今の自分にはちょっとうらやましい。


そんな麻智の頭にポンと手を乗せて、文哉さんもうなずく。



「じゃあ、手分けして買ってくるか」

「たこ焼きとかおでんとか、無難そうなの適当に買っとけばいいですよね」



あー、おでんいいなあ。冬にあったかくしてお家の中で食べるのもいいけど、夏祭りの露店で買うおでんもおいしいんだよね。


三木くんの言葉にほわほわそんなことを考えていたら、不意に左手首を掴まれた。

驚いて顔を上げると、三木くんが顔色ひとつ変えず文哉さんと麻智に目を向けているところで。

彼の少しだけひんやりした手の感触が、やけに生々しい。



「じゃあ、俺らはこっち側で何か適当に買ってきます」

「っえ、え?」

「了解。じゃあ、各々買い出し終わったらまたここのわたあめ屋の前に集まるってことで」

「はい」



混乱する私の声なんてあっさり無視で、男性陣は話をまとめてしまった。

三木くんにぐいぐい手を引かれながら、人混みの中をくぐり抜けていく。



「えっ、ちょ、三木くん……っ」



私がようやく彼の名前を呼ぶと、掴まれていた手首がパッと解放された。

かき氷屋さんの前の少し開いたスペースで立ち止まった三木くんが、私を振り返る。
< 159 / 355 >

この作品をシェア

pagetop