苦恋症候群
「すみません、強引に連れてきて」

「や、あの……買い出しは別にいいんだけどさ」

「抜けますよ、俺らふたり」

「へっ?!」



やはり何の感情も見えない真顔で告げられたそれに、思わずすっとんきょうな声をあげてしまう。

三木くんは腕時計に目を落としながら、なんでもない様子で続けた。



「俺たち、完全にお邪魔虫でしょう。はぐれたフリして別行動します」

「……意外。三木くんもそんなこと考えるんだ」

「人のことなんだと思ってるんですか。それにまあ、提案したら武藤さんもノリノリだったし」



……なるほど。さっき私と麻智がこそこそ話していたとき、後ろのふたりも内緒の打ち合わせしてたってことか。

三木くんと文哉さん、やっぱり気が合うよなあ。……おなかの中が多少黒い者同士。



「まあ、俺とふたりが嫌なら帰るって手もありますが」

「……そんなことしないよ。せっかく来たんだから、花火ちゃんと見てく。浴衣まで着てるんだし」



そう言って顔を上げたら、予想外に思いっきり三木くんと目が合った。

パ、と思わず下を向いた私の耳に、「じゃあ」と彼の声が届く。



「とりあえず、何か買いに行きますか。森下さん何食べたいですか?」

「……おでん」

「了解」
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